現代社会は、高度情報化社会と呼ばれ、それ以前の工業化社会とは異なる特色を有しています。(両者の違いの要点をキーワードとして列挙したスライドを示しますが、詳細は別の機会にご説明します。)
たとえば、インターネットに代表される情報テクノロジーの発展に伴い、ビジネスのIT化、eビジネスが台頭し、国境を超えたコミュニケーションが容易に行われるようになり、経済そのもののグローバル化が促進しました。
これまで富・財産の代表は不動産(土地・建物)でしたが、新たに知識・技術などを含む「情報」の財産的価値が増大しました。大量生産・大量消費の工業化時代には、工業製品を生産するための工場用不動産を有し、多額の資本を有しなければ、新規事業を興すことも困難でしたが、現在では不動産の替わりに、画期的な知識・技術・センス等を有していれば新規事業を興すことも可能となっています。世界的な企業であるマイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏にせよ、アップル社を創業したスティーブ・ジョブ氏にせよ、事業に供する不動産や資本金を有していたわけではなく、いずれも自宅のガレージのようなところから、事業を開始し、十年後には世界的な企業の基礎を築きあげました。こうしたことは工業化社会・時代においてはあり得ないことでした。
情報テクノロジーは経済・産業の在り方を変えただけではなく、私たち人間同士の関係性も大きく変化させました。例えば人との待ち合わせも、今であれば「少し遅れます」という連絡も簡単にできますが、携帯電話が普及する以前は、そうした連絡を取る手段も限られており、待ち合わせしても会えないことが多くありました。今の時代は、そうしたすれ違いは生まれにくくなっています。
また、工業化時代においては、情報の発信者は、新聞・ラジオ・テレビなどのマスコミュニケーション企業に限られ、普通の人々が情報発信することはできませんでした。しかし、現在では、SNS等を通じて、誰もが、いつでも手軽に情報発信でき、見知らぬ個人同士が知り合い、簡単にコミュニケーションをとることができるようになっています。一度も会ったことはないのに、お互いのプライバシーに触れる情報まで交換しあうような関係も増えています。また趣味などを通じたコミュニティがインターネット上で発生し強い結びつきが生じることもあります。
このように工業化社会と高度情報化時代では、極めて大きな変化・違いがみられます。1990年代には、こうした変化を捉え「IT革命」という
言葉もありましたが、実際に革命的といってもよい変化が生じ、しかも情報テクノロジーのさらなる進化により、その変化が現在進行形で継続している状況です。こうしたことから、様々な新しい問題が次々に惹起し、その問題を解決するルールや法律がない状態で、いわば素手でこれらの問題に向かわねばならないことも増えています。こうした場合には、その問題を倫理上の問題と捉え、根源的な考察を加える必要があります。
倫理を扱う学問といえば、哲学における一分野であるところの倫理学です。なかでも社会における具体的・実際的な問題の是非を論じる応用倫理学という分野がありますが、その一つとして「情報倫理学」が必要とされています。
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